どうもこんにちは!
ビアジャーナリスト17期(予定)のイズミナオトと申します。
みなさん、オフフレーバーってご存知でしょうか。
大きくは、様々な要因によってビールに発生する『異臭』のことを指します。
「ビールのことを勉強してたらオフフレーバーって単語でてきたな…」
「知ってるけどどんな味…??」
「どれがオフフレーバー??」
オフフレーバーっていまいちよくわからん!!!!!
そもそも飲んだことあるんか????!!!!
という疑問を解決するため、我々はアマゾンの奥地へ向かった……
嘘です。
イズミ、シンプルにめちゃくちゃ調べました。
あと実際に体験もしました。
オフフレーバーが発生しないように僕たちができることも併せてお伝えしていこうと思っております!
ビールの敵を知り、未然にオフフレーバーを防げれば怖いものなしですからね!
オフフレーバーとは
オフフレーバーは、外部からの臭気成分の付加や、元来含まれている香気成分の化学変化やバランスの変化により、本来その食品が持つ匂いから逸脱した異臭のことである。多くの場合は健康への影響はないが、商品価値は損なわれる。
世の知識神、ウィキペディア先生に聞いてきました。
商品価値が損なわれるの、すごい嫌ですよね。
せっかく醸造家たちが頑張って美味しいビールを作ってくれてるのに、ビールから異臭が発生して美味しく飲めないなんて……!
でもビールを作ってる途中でもオフフレーバーは発生するそうです。
めちゃくちゃ厄介ですね。
ビールにおけるオフフレーバーの発生原因は、
①製造段階
②流通段階
③貯蔵段階
④販売段階
この4つがあります。
製造段階に関しては、売り手も飲み手も関与できない部分なので仕方ないとしても、残りの3段階は工夫次第でなんとかなりそう…!
でもその前にビールにはどんなオフフレーバーが発生するのか、見ていきましょう!
よく聞く代表的なオフフレーバー
クラフトビール関連の書籍を開くとオフフレーバーの項目にかる~く書いてあるのがDMS(硫化ジメチル)・ダイアセチル・酸化臭・日光臭の4つ。
DMS(硫化ジメチル)
煮たキャベツ、牡蠣と海の香りに例えられるオフフレーバーで、一定値以上ビールの中に入っていると香りがどんどん強くなるという厄介なやつ。
通常は煮沸工程でDMSは揮発するが、煮沸の温度や時間不足、雑菌の混入などによりオフフレーバーが発生する。
ダイアセチル
バターのような香りに例えられるオフフレーバーで、主に発酵の初期段階に酵母が出す香りで、ビールの爽やかさを損なう可能性があります。
舌の上にべったりと張り付くような渋みを伴い、不快感が残ります。最悪。
酸化臭
麦芽由来のリノール酸などの脂質が変化することで発生する2-ノネナールが原因のオフフレーバー。
ダンボールっぽい香り、甘ったるい香り、また金属のような香りがする場合もあります。
加齢臭の原因物質と構造がよく似ているため老化臭 とも呼ばれたりします。
日光臭
日光臭と聞くと、快晴時に干した洗濯物のあの香りなのでは??と思うかもしれませんが、違います。
獣臭です。残念。
ビールの苦味成分が日光を浴びることでスカンクのような香りを発するオフフレーバーです。最悪。
なんて??
スカンク??
日本じゃそうそう見かけませんよ……??
スカンクのおならが臭いのはなんとなくわかるけど、実際の匂い知らんし!
料理研究家が「家にある簡単な材料でできますからね〜!ではまずバジルとクローブとシナモンを混ぜます」の時と同じでしょ?
あと煮込んだキャベツ??ほんで牡蠣??
美味しいやん!牡蠣ポトフやん!
こんなんいうてますけど、いつも飲んでるビールからの牡蠣ポトフとかスカンク系の異臭がするのは嫌ですよね……
牡蠣ポトフエールとかなら話は別ですが、そんなものはこの世に無いと思うので……
というわけで実際に体験しましょう!!
できるやつだけですが!
オフフレーバーキット、買いました
これです。
10種類の臭気成分が入ってる試薬キットです。
お値段22000円。たっけえ……
それだけの価値をこの記事に盛り込んでやるぜ!!
一応10種類ありますが、ビールでよく発生するオフフレーバーを中心にして進めていきます。
あと本来の試薬キットの使い方も公式サイトにあったので、それを参考にテストしていきます。
▷学習/トレーニング用 臭質サンプル オフフレーバーキット | 一般社団法人 オフフレーバー研究会
これを使います。
引用元:http://www.fofsg.jp/wp-content/uploads/memo.pdf
実際に嗅いで、思ったことを書いたのを文章化していきます。
直に嗅ぐと鼻が終わる可能性があるので綿棒に吸わせて嗅ぎます。
ではいきます。
①グアヤコール
においの質:薬品臭、歯科用薬のにおい
→臭くはない。消毒液のような香り。
②ジメチルジスルフィド(二硫化ジメチル、二硫化メチル)
においの質:にんにくのような臭い、野菜の腐敗臭
→少し臭み。にんにくっぽい香り
③ナフタレン
においの質:防虫剤臭
→ほぼ無臭。
④2‐メチルイソボルネオール
においの質:カビ臭、墨汁臭
→ちょっとカビ臭い。
⑤トリメチルアミン
においの質:腐敗臭、魚の腐敗臭、スルメのにおい
→くさい。なんか腐ってる感じ。
⑥2,4−デカジエナール
においの質:油の酸化臭、使い古した天ぷら油臭
→油くさい。3週間使ったあぶら。
⑦トルエン
においの質:シンナー臭、溶剤臭
→プラモ作るときに嗅いだことある。
⑧2,4,6−トリクロロアニソール
においの質:カビ臭
→くさい。カビ。④よりカビ
⑨n-吉草酸
においの質:不快臭、汗くらい臭い、靴下のむれた臭い
→くさい。汗臭い。
⑩2,4-ジクロロフェノール
においの質:消毒臭、塩素臭
→消毒液っぽい。
※実際のメモ用紙※
ちょっと鼻が詰まっていたので、完璧ではないと思います…
今度万全なときにもっかいやりたい。
とりあえず一通り体験しました。なかなかですね……
全て実際に嗅いで体験した感想は、
です。
先述しましたが、オフフレーバーが発生するのは、
①製造段階
②流通段階
③貯蔵段階
④販売段階
です。
これもう僕たちが対策できるのは、③の貯蔵段階と④の販売段階しかないですよね。
③と④でオフフレーバーが発生しないようにできることを共有できればなと思います。
遅れましたが、この記事はビールを販売してる人向けです。
今決めました。
なぜなら僕がビール屋をやってるから!!
オフフレーバーを発生させないために僕たちができること
まず、製造段階後に発生する代表的なオフフレーバーは日光臭と温度管理における酸化臭です。
この2つのオフフレーバーの発生機構とそれを防ぐためにできることをお伝えします。
日光臭について
このオフフレーバーは文字通り、日光や蛍光灯、水銀燈などの紫外線が当たることによって発生します。
香りは先述の通り、スカンク臭・狐尿臭と言われていますが、めっちゃ想像しづらいですよね。狐の尿て言われましても。
これも知り合いのブリュワーに聞いたら「動物園の肉食動物のエリアで香ってくるやつに似てる!」とのこと。わかりやすい……?
日光臭の原因はMBT(3-methyl-2-butene-1-thiol)ってやつなんですが、ちょっと僕が理系の分析上がりって感じのことしますね。
手書きです。
わかりやすく書いたつもりなんですが、ほんのり解説します。
別に見なくても大丈夫。
元々ビールに含まれている苦味成分イソアルファ酸のアリル鎖側が光分解を受け、その結果ビール中のSラジカルと反応してMBTが生成されちゃうっていう図です。
最終的に出来上がったMTBが例のスカンク臭を発生させるってわけです。しかも閾値がめっちゃ低くって、すごい少量でも人間が感じ取れてしまうんです。
なので日光臭生成を抑えるために、ビールに直接光を当てるのはやめましょうってわけです。
もしくは光分解しづらい苦味成分を使用して対策するってのもあるんですが、これはブリュワーに任せましょう。
光を当てないという点では、缶や樽を用いれば全くもって気にしなくてよいのですが、瓶やと光が透過してしまいます。
光って言うてますが、やばいのは350~550nmの波長がやばいです。
引用元:2.光について 『イメージで分かる』光源の明るさ |大塚電子
ビール瓶に使われているのが茶色やったりするのは、この波長を遮光するためですね。
ちなみに海外製に多い、透明や緑色の瓶は遮光することを諦めたわけではなく、苦味成分をイソアルファ酸以外を使用してMBTが発生しないように作られたビールが入ってるってなわけです。デザイン重視のスタイルってわけです。
さてお次は酸化臭です。
酸化臭について
酸化臭は厚紙を連想させるカードボード臭ですね。
原因となるのはトランス-2-ノネナールという成分。
これは製造段階にも噛んでくることなので一概には言えませんが、高温の場所にビールは保管するのは良くないです。
日光臭の説明に比べると「めっっっっちゃ薄いやんけ!」ってなるけど、ホンマに気をつけるのは温度。
具体的な保管温度は、6〜9℃を維持するのがベストです。
ドラフトビールは4℃以下がおすすめです。
ビールの酸化と風味の劣化を抑制することができます。
店舗で販売するときに気をつけること
保管環境
風通しが良く、清潔な場所に保管することを心がけましょう!
湿気が多くジメジメしてるところに置いておくとカビがね……
カビもですが、菌とかも繁殖してしまうとすーぐ容器汚染になるし、最悪です。
あと温度も瓶・缶なら6〜9℃での保管、樽なら4℃以下で保管しましょう。
直接光が当たらない暗所で保管ってのも大事です!
機材環境
サーバーのホース類の流路洗浄の徹底が超大事です!
毎日の水通しやスポンジ通しを怠るとホースの内側に汚れが付着し、そこを通ってくるビールに変な酸味とジアセチル(バターのような香り)がついてしまいます……これめっっっっちゃ臭いし、まじで1杯飲みきれないくらいのお味になります。
あとはグラス!
これも超大事で、グラスの淵などに油汚れや口紅が残っていると、化粧品臭や酸化油の臭いがビールについてしまいます。見た目も最悪です。
こんなところでしょうか……!
最後に!
ビールは光・熱・振動や衝撃・衛生面などの様々な要因で味が変化してしまうデリケートなものです。
ブリュワーが考えて作ってくれたビールを、新鮮かつ期待通りの味でお客様に提供できるように、保存・保管・機材類の管理・提供方法などを見直し、最高のビールを世に届けられるようにしていきたいですね!
この記事を読んでくれた皆様が、オフフレーバーというビールの敵を知り、それが発生しないような対策ができるようになってもらえたら、僕は嬉しいです!
ありがとうございました!
【スカンクに会える動物園一覧】(2021.6.9現在)
神戸どうぶつ王国 ロッキーバレー「ビーバークリーク」(シマスカンク)
【参考文献】
尾崎一隆、鰐川彰「ビールのオフフレーバーとその制御」(2010年41巻4号p.246-255 )